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更新日 2015-08-06 | 作成日 2007-09-15

Stories of The Rain

夢見るころを過ぎても

第四十三章 永遠のThe Rain

written by Akio Hosokai

bind_36.jpg「奴は弱点を知っているのか?奴はデビルだ」米兵の顔が凍りついた。電波が海面で反射して勝手に爆発するので、飛行機に感応するように造られたVT信管の対空砲火は海面近くでは使えない。そのゼロは重い800キロ爆弾を抱えて海面すれすれを飛んできた。海軍一の臆病者と言われようが、愛する妻と子を守るために、何よりも生き続けたかった男は、こうして26年の短い生涯を閉じた。めっぽう腕のたつ穏やかなゼロ戦パイロットだった。
神風特別攻撃隊。結果としての死ではなく、死ぬために出撃する。もはや、作戦といえるような代物ではない。ただ、ただ…、数えきれない数の若者が、死んでいってしまった。

世間では純愛映画と言われているそうだが、「永遠のゼロ」を見てきた。純愛という言葉では語りきれない重い時代背景がある。机上で作られた愚かな命令にも、特攻機パイロットは操縦席で敬礼をしながら突っ込んでいく。死にたいと願う若者なんか、いるわけがない。涙が止まらなかった。彼らをテロリストと呼ぶ日本人を、俺は決して許さない。
一方で「俺も必ず後から行く。先に逝って待っててくれ」と言った上官で、言葉どおりに出撃した者は皆無に近いそうだ。軍や国としての意思決定をする人間の無能と臆病と自分大事について、ヘドが出るほど深く考えさせられた。いつの世でも、こういう奴はいる。

俺は昭和25年生まれだから、そういう時代から5年後に生まれたわけだ。信じられない。
5年なんて、あっという間だ。「この平和ボケが!」と言われそうだが、この歳まで無事に生きてこられたことをつくづく感謝する。「永遠のゼロ」を見て、何に対するものなのか、素直に感謝の気持ちを感じるようになった。例えば、仕事ができること、BANDができること、酒が飲めること、大切な家族がいること。俺が得意とする「瞬間湯沸かし器」的な一過性の熱病かも知れないが、少なくとも今は、感謝の気持ちで満ちている。

The Rain。本当に何もなかったゼロから、共にバンドを作りあげた和田善郎と荒木章安。真夏のビーチライヴの立役者でいつの間にかバンドに加わった屋代雅邦。バンドをバンドらしく再構築しつづける塚田哲男。何とすばらしい奴らだろう。細貝明夫の犯罪レベルの我儘をこいつらは許してくれる。許すどころか、共犯者になってくれる。俺は幸せもんだ。

だがよ。幸せがってばかり、いられねぇぞ。今年のLIVEは相当きついぜ。新曲が多い。しかもメジャーな曲ばかり。誰でもわかる曲で、誰でもわかるミスをするなよ。いやいや、演奏ができなければ、ミスはありえない。まずは、楽曲としての体裁を整えることだな。
練習は10回しかできない。コップの水を「あと半分しかない」とみるか「まだ半分もある」とみるか。まだ1回も練習してないけど俺は前者。まっ、やるしかない。それではLIVEに来てくれるお客さんに向かって、…敬礼!…「よーし戦友ども、突っ込むぞー!」