| HOME | Stories of The Rain | 第三十九章 |

更新日 2015-08-06 | 作成日 2007-09-15

Stories of The Rain

夢見るころを過ぎても

第三十九章 ある日のスタジオ練習

written by Akio Hosokai

hiragana_a_ko.jpg誰も口を開かない。黙々と準備を続けている。一番早く音を出すのは荒木章安。ドラムスだから早い。大変なのは塚田哲男。全員のマイクセットとミキサー調整、自分のギター、イフェクター調整、それと発声練習。キーボードのAを聞いて耳だけで音合わせをするのは細貝明夫。低音だからアローワンスが大きいので、まっ、だいたいやね…。

かれこれ20分が過ぎた。シビレを切らした和田善郎がキーボードでブルースコードを回転させる。ごく自然にベースとドラムが合流。即興のメロディーと歌詞でボーカルも入ってくる。平気で別の曲を練習していたリードギターがやっと気づいて、オカズを入れだした。しかし「おい、音、違うぜ」。で、屋代雅邦は、再びチューナーとニラメッコを開始する。

スタジオ練習の始めは、いつもこんな感じ。まず声が出ない。ジジイなのでアップテンポの曲には、なかなか着いていかれない。頼むよ、老苦じゃなくて、ROCKなんだぜい。

「今日はLIVE本番の通りに練習する!」「一曲目、何だっけ?」「ばかやろ、オーダー順に譜面を並べとけや!」…譜面と言っても、歌詞カードに毛が生えた程度の代物だけどね。

さて、そろそろ、まじめにやるとするか…。

「今さら言っても何だけど、そこは6弦全部じゃなくて、リフのようなもんだから、中音の2~3本をリード的に弾くんだ」…ということで、想定外の個人特訓が始まる。
「おいドラム、もう少し迫力のある音を出してくれ」の指摘に「ごめん、足がつりそう」。ドラムは家で個人練習する範囲が限られてくる。ハンディはあるけど、よろしく頼むぜ。
「う~ん、何か音が足りない」「どこだよ?」「イントロ部分、途中にも入っている。本来はギターだけど、キーボードで何とかならん?」「すぐにと言われても困るよ。次回までに音を探してみるけどさ…」
「あのですね。ズタズタズタって上がるとこ、リズムが不明確で歌いづらいんですけど」
全員でその部分をやってみる。そうだな。まったくメリハリがない。ドライヴ感はゼロ。この部分の命は「小気味いいリズム」…ドラムに密着したベース、それとファズ系なのに妙にクリアなギターカッティングに尽きる。「ふ~、休憩する?」

けっこう一生懸命に練習しているだろ。しかしまぁ、個人個人の技量の問題もあるけど、基本中の基本は元曲の解釈だ。いやというほど聴きこんで、そのイメージを共有することから全てが始まる。「言葉」で共有するのは非常に難しいが、そこらへんをブレークスルーしないと【複数で一つのものを創り出す】バンドとは言い難い。何年やっても課題は多い。