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更新日 2015-08-06 | 作成日 2007-09-15

Stories of The Rain

夢見るころを過ぎても

第十六章  絶対にアイツだ!

written by Akio Hosokai

bind_free102.jpgアルバイトって意外と楽しいもんだ。きれいな女子社員もいるしさ…。いやいや年上の女は色っぽいなぁ…。今夜は、バイト仲間や社員のお姉さんたちとの飲み会だぜ。できればそのお姉さんと……と考えていたところに、見慣れない一人の若者が入ってきた。我々の席に座った。そのうち、ギターを弾きながら、まったりした声で歌いだした。お姉さんはその若者を知っているらしい。おい若者!お前、何だよ!何、目立っているんだよ!

大学1年の夏、和田と細貝は立川高島屋で初めてのアルバイトを経験した。二人は別々のセクションに配属され、細貝は外商部だった。その外商部の飲み会での話。

その若者、紹介されたが名前は思い出せない。なぜ我々の飲み会に加わったのかも思い出せない。ただ、歌っていた曲は自分で作った曲だ…と言っていたようなおぼろげな記憶がある。「友だちに見せるために~恋をする~」……生物学的欲求だけでなく、そうだよな、その若者が歌う意味が何となく分かるような気がした。同年代の若者が作ったフレーズは細貝の耳と心にいつしか定着していた。

その後、その若者が歌っていた曲をアイツがステージで歌っていたことがあった。細貝のアルコール漬の海馬の奥底で、何かが引っかかり続けていた。あれから40年近く経過したが、今日インターネットで検索してみた。…あった。やっぱりあった。RCサクセション。「三番目に大事なもの」という曲だ。「男の子なら誰でもかまわないわ…友達に見せるために恋はするのよ…一番大事なものは自分なのよ…その次に大事なものが勉強で…三番目に大事なものが恋人よ…三番目に大事なものがあなたよ…」

忌野清志郎。初期のペンネームは肝沢幅一。本名、栗原清志。中学は国分寺。高校は日野。平成21年5月2日。惜しくも癌で亡くなった。享年58歳。

あの時の若者は栗原清志くんだったのかも知れない。いや、絶対にアイツだ。絶対にあの忌野清志郎だ。そう思い込むことにした。

「だから何だと言うんだ?」まぁ、そう言わないでくれ。偉大なるハードフォークの雄は、その生き方はロックそのものだ。「ロックをやっている」と言ってもサラリーマンを続けている自分とは大違いだ。知らないうちにそういう人物と時空を共有していたことが、何となく嬉しい。幻の清志郎くん、ありがとう。そして、安らかな旅立ちを…。

その若者が忌野清志郎でないとしても、栗原清志様のご冥福を心からお祈り申し上げます。